こんにちは. 株式会社アークエッジ・スペースのソフトウェア・基盤システム部の星加 雅斗(ほしか まさと)と申します. 私は,ローンディールのレンタル移籍プログラム(詳細は後述)で1年間アークエッジ・スペースのお仕事をしておりました. 今回は,10年ちょっとSIerの仕事をしてきた中堅社員の私がこれまでとは全く違う環境での仕事を通して感じたことをお伝えしたいと思います.
自己紹介
まずは自己紹介から.
仕事
NECソリューションイノベータ(NES)で主にクライアントソフト,サーバソフトの開発をしておりました.
キャリアの半分以上で扱ってきたのはソフトウェア(SW)エンジニアリング関連,つまり,SW開発作業の品質向上,効率化,属人性排除などに寄与するシステム. 宇宙関連のプロジェクト(PJ)に携わったこともありますが,この時はあくまでSWエンジニアリングだけを行う立ち位置でした.
PJによってプログラマ,チームリーダー,プロダクトオーナーなどの役割を担当してきました. コードに関しては最近は書くよりレビューがほとんどです.
趣味・嗜好
週末はビリヤードをするのが習慣で写真はビリヤードの大会でラスベガスに行った時の写真です.(少し古いですが)
物理とか数学関連の話題が好き.ですが,今いる環境だと周りのレベルが高すぎて得意とは言いづらい.
といった感じの人間です.
アークエッジ・スペースとの出会い
親会社のNECで何人か実績のあったローンディールのレンタル移籍プログラム(大企業社員がベンチャー企業で事業開発を実践経験するプログラム.詳しくは先の公式ページ参照)にNESでも取り組もうという話が挙がり,ちょうどPJの切れ目のタイミングだった私にお声がかかりました. 10年以上NESで働き続けてきた人間を急に1年間もベンチャー企業に放り出すということで,拒否権もありました. というより,拒否することもまた尊重されるべき一つのキャリア選択なのでレンタル移籍の対象者は本当にやりたい人を慎重に選んでいた印象があります. NECグループ中であまり関連のないPJを色々と渡り歩いてきて新しいことをやるのが好きだった私は即答でYes. そこから自分探しやベンチャー企業とのマッチングなどの活動を経て2022年4月からアークエッジ・スペースにSWエンジニアとしてjoinすることになりました.
これはアークエッジ・スペースにjoinしてから知ったことなのですが,漫画「宇宙兄弟」に星加 正というJAXAのおじさんが登場します. 私はあまり青年漫画を読まないので全然知らなくてスミマセン状態でしたが, 昔2年ほど関わっていた宇宙関連のPJで自分の名刺を渡した時に妙にウケが良かったのはこういうことなのか,と. この2年でやってたのは宇宙関連の人達がやってる業務をサポートするツールを作ってただけで宇宙に関する専門知識が身に着いていったわけではなかったのですが, こんなしょーもない話でも自分に興味を持ってもらえるきっかけになったのであれば,このJAXAのおじさんにも感謝ですね.
アークエッジ・スペースでの仕事
アークエッジ・スペースではソフトウェア・基盤システム部の所属になり,衛星搭載SWの開発とSWの力を使った衛星開発環境の改善に取り組むことになりました. ほんの一部ではありますが,私がアークエッジ・スペースで取り組んできた仕事をご紹介したいと思います.
「データシートって何やねん」からのスタート
衛星搭載SWに関する知見をほとんど持たない私でしたが,サポートしかできなかった昔のPJの経験から今度は自分も作ってみたいということで LPWA(Low Power Wide Area)の一種であるLoRaという通信規格で通信する衛星の1モジュール(写真右側の基板)のマイコンに載せるSWの開発を担当させてもらうことに.
「前の世代の衛星向けのコードがあるので,基板の仕様とデータシート見ながら移植すればOKです.」 なるほど!簡単なお仕事・・・ではないですね! そもそもデータシートって何?何でこんな小さなデバイスの仕様書なのにこんなページ数あるの? なんか肝心の情報が載ってないような?あっ!エラッタ(別冊)に載ってたわ!
そんな組み込み初心者の叫びを温かく見守り,導いてくれる若き諸先輩方の協力もあり, 今ではこのモジュールに載ってるデバイスのSWインターフェース(という狭い範囲)なら私に任せなさいと言えるところまで来れたかなと思っています.
衛星開発のめんどくさいところを何とかしたい
支援用のツール作成なんかはこれまでのキャリアでもやってきたところなので,その知見を活かして衛星の試験作業を効率化するぞ!というところにも取り組んできました. 衛星試験の現場で起きていることをヒアリングして作業を省力化するためのツールを作ってみること自体は簡単でした. ですが,実際の衛星試験の現場ではこのツールが中々うまく機能するところまでいきません.
例えば,その時実施した試験を再現できるようにするために衛星の設定や試験中の機材の使い方などさまざまなこと記録して残す必要があります. このためにデジカメ等で撮った映像を毎回PCに取り込んでクラウドにアップロードする必要がありました.
これが面倒だから,最初からPCに繋いだWebカメラで撮るようにすれば撮影からアップロードまで自動化できて良さそう! と考えて自動で撮影やアップロードをするスクリプトを組んだまでは良かったのですが, 作業の邪魔にならずに安全でかつ映像から十分な情報が得られる設置場所が全然見当たらなかったり クリーンルーム内での作業がかなり神経を削るためそもそもPC操作が増えること自体が作業者にめちゃくちゃ嫌われたり と色んな壁にぶち当たりました.
上の写真は試行錯誤の末になんとか許容範囲に収まった撮影環境の図です.
しかし,これに限らず衛星開発で起こるさまざまな問題をソフトウェア思考で解決していくアークエッジ・スペースの挑戦はこれからも続いていきます.
仕事を通して感じたこと
アークエッジ・スペースでの仕事をSIer中堅社員である私の目線で振り返ってみます. SWエンジニアとして携わっていたのでSWの開発環境と開発スタイル,2つの視点で私が感じたことを述べていきます.
開発環境・設備
まずはSWエンジニアが日々向かい合う開発環境に関して,私がアークエッジ・スペースで使用している環境を習得する過程とアークエッジ・スペースのSWエンジニアの考え方,そしてSIerとの違いについて述べたいと思います.
Gitを使えるようになることからスタート
Subversionを使った開発に慣れてしまっていた自分にとってはコマンド主体で開発中にブランチを行ったり来たりするGitはずいぶんトリッキーに感じました. 構成管理の秩序が大切なことは皆さん認識しているので,わからないことは周りのエンジニアに聞けばわかりやすく教えてくれます.
新しいとか古いとか関係なくその組織で使っている環境について新入りが知らないのは当たり前なので, こんな初歩的なことをいちいち聞いて申し訳ないないな・・・という気持ちは抑えてどんどん教えてもらうことにしました. 使ったことない開発環境に慣れていくのは案外楽しいです.
開発体験を追究すること
組み込みSWの開発はちょっとした面倒がとにかく多いです. リソースの制約が厳しいとかシミュレーションと実機のデバッグが同じようにはいかないとか 組み込みSWに慣れてる人なら当たり前だと思うようなことでも特にサーバやクライアント系ばかりやってきた人間は毎回つまづきます.
そんな時に「教えてあげよう」とか「応援しよう」だけでなく「ソフトウェアの力でどうにかできないか」と考えて議論し始めるSWエンジニアの集まり, それがアークエッジ・スペースのソフトウェア・基盤システム部なんだなと思いました.
SWエンジニアリングの落とし穴
少し話は変わりますが,昨今はSIerでも厳格なウォーターフォールのプロセスに従って開発しているPJばかりではなくアジャイル開発にも取り組んでいます SIerはSWエンジニアリングに長けており,長年培ってきたSW品質保証の知見が詰まった開発標準に従って進めることで 形式上アジャイル開発にシフトしたとしても企画した開発において一定以上の成果・進捗を担保できます.
時間が経ってもあくまで企画通りに進めるなどとアジャイルの本質を見失っていそうなことを平然と書いていますが, これでも企画変更の稟議を通すのに多大なコストが必要なSIerにとっては旧来のプロセスからは進歩しています. 仕事において進歩するということは実際はけっこう大変なことであり,時代に追い付けず,本質を見失っていたとしても進歩自体に満足してしまいかねないというのが落とし穴ではないかと思います.
開発スタイル・文化
次に開発スタイルや文化について.
先述の通り,開発のどこかで「標準」にぶちあたるSIer. アジャイル開発の各プラクティスにおいて開発者と自由闊達な議論をしたいと望んでいるプロダクトオーナー自身が最終的に「標準」と折り合いをつけることを念頭に議論に臨んでいたりします.
標準と折り合いをつけるという軸を持つこと自体が悪いわけではなく,むしろ製品出荷前の品質保証部とのバトルに勝つために必要なピースなのですが, 歴史の中で肥大化してきた標準を習得するのも大変な中でそこに対して疑問を持ったり,うまく取捨選択したりすることは簡単なことではないでしょう.
一方で,スタートアップであるアークエッジ・スペースが採用している「標準」はまだまだ小さなもので日々議論をしながら進化している最中です. もしかしたら肥大化した標準の中にも実はアークエッジ・スペースが必要としているものがあるかもしれません.
確かにSIerは同じソフトウェアを扱う企業でもスタートアップと比べるとちょっと体質的に古いと感じるところは多々あります. しかし,SIerのちょっと良さそうなところを持ち込んでみようかと考える人間がいても面白いのかなと思います.
まとめ
10年以上SIerでいわゆる「エンジニア」と似て非なる仕事をしてきた自分が レンタル移籍という形での縁があってアークエッジ・スペースの「エンジニア」として関わらせてもらいました.
10年以上やったならリーダーなりプロマネなりエンジニアをひっぱっていく立場になっていく.
そんな誰が描いたともわからないなんとなくのキャリアパスに疑問を投げかけ 自分にとってどういう選択をするのが最良なのかを考えさせられる一年でした. NESにもどった後は「エンジニア」仲間とともに新しい事業を切り拓いていくような仕事を自分の元に手繰り寄せていきたいと思います.
宇宙業界の未来を真剣に考える人々が集まった環境だからこそ こういった正解のない選択について改めて真剣に考えることができたのだと思います.
結び
誰もが衛星を使ったビジネスができる世界を目指すアークエッジ・スペース. なにもチャンスは若い人達だけのものではありません.
ソフトウェア思考で宇宙業界を変える.
そんなアークエッジ・スペースの仕事に1年間どっぷりつかってきました. 今後周りや自分にどんな変化が起ころうとも ここでの経験を活かして楽しいエンジニアライフを送れるようにしたいと思います.
キャリアに悩むいわゆる中堅層の方々にとって本記事がちょっとした参考,息抜きになれば幸いです.