ArkEdge Space Blog

株式会社アークエッジ・スペースの技術要素多めのブログ

人工衛星の作り方ではなく使い方と向き合った2年間

こんにちは. 株式会社アークエッジ・スペースのデータソリューション部長の鈴本 (meltingrabbit) です.

創業以来,いかに多品種の小型衛星をアジャイルに開発・製造・運用していくか,に主に注力していた当社も,2024 年 1 月の組織再編において,リモートセンシング事業部(現在はデータソリューション部)を新設し,人工衛星の「使い方」,つまり衛星データを用いてどのように価値をユーザーに届けるか,に注力する組織を立ち上げました. このチームの特徴は,

  1. 一次産業や環境課題などのグローバルな課題を解決できる事業をターゲットしつつ,ユーザーニーズが第一であるため,現場に根ざした協働型アプローチを重視すること
  2. 自社の衛星データにこだわらず(≒ 忖度せず),さらには,衛星データにすらこだわらずに,必要に応じて様々な地理空間情報や解析手法を総動員すること
  3. モダンな Web 技術を用いて,価値提供のためのアプリケーションを迅速にプロトタイピング・開発・展開すること
  4. オープンコミュニティやエコシステムとともに成長することを重視し,将来の宇宙産業を担うプレイヤーが育つコミュニティの形成と発展に主体的に関わること

です.

今回は,最近登壇した FOSS4G Global 2025第69回 宇宙科学技術連合講演会での発表スライドを引用しながら,このチームができてからの約 2 年間の振り返りと,今後の展望についてお話ししたいと思います.

人工衛星の「使い方」にフォーカスするチームの立ち上げ

さて,時間というのは矢のように過ぎていくのを実感している今日このごろですが,3 年前にこのような記事を書かせていただいていました.

このときの私の所属が「ソフトウェア・基盤システム部」であり,さらに,

ソフトウェア部は,人工衛星そのものに搭載されるソフトウェアはもちろんのこと,衛星の運用・開発を支援する地上ソフトウェアや果ては社内システムまで,ソフトウェアっぽいものをまるっと担っている部です.

ともあるように,創業以来,当社のソフトウェアチームを主導していました.

当初はチーム規模が小さく,衛星搭載ソフトウェアから地上システムまでなどと一人で何役もこなさないと会社が回らなかったため,プロダクトではなく "ソフトウェア" というスキルセットで部を編成していました. 会社もチームも成長してくると,それぞれの「プロダクト」や「事業」にソフトウェア人材をアサインしたほうが,プロダクト開発や事業開発の様々なフェーズでソフトウェア的な考え方やアプローチを活かしやすいだけでなく,会社全体にソフトウェア指向を浸透させるのにも適していると判断し,そのような意図も込めた組織変更が実施されました.

詳しくはまた別の機会で紹介する1として,先述のソフトウェア・基盤システム部は,現在では衛星プロジェクトに深く関わるメンバはそれぞれの衛星プロジェクトを遂行するチームへ合流し,衛星開発・製造・運用,社内インフラなどの共有基盤やコンピューティングに関わる高度な専門性が要求されるようなメンバは基盤的なチームへ再編されました2. そして私はというと,同じ人がずっとトップを張っていてもそのチームの成長はサチっていくこと,また,優秀なメンバもたくさん入社してくれたこともあり,ソフトウェア基盤は後任におまかせし,人工衛星の使い方,つまり衛星データを活用してどのような価値をユーザーに届けられるかを考える事業開発を行うチームを新しい事業部として立ち上げることになりました.

最初は Web エンジニア 2 名(うち,1 名は他部署が本業の助っ人),事業管理・開発 1 名,そして私の計 4 名でスタートしましたが,現在では新しく,Web フロントエンドエンジニア(副業),衛星データ解析の経験豊富なシニア,機械学習エンジニア(副業),Web バックエンドやインフラ・機械学習など幅広く手を動かせるエンジニア,Web GIS・Web フロントエンドエンジニア,若手事業開発メンバ,UX デザイナ兼プロダクトマネージャ,若手IoT通信兼国際事業展開メンバ,若手国際展開メンバと,多様なメンバを迎えることができ,力強いチームへと成長してきました.

その結果,もちろんまだまだビジネスとして軌道に乗っているとは言えないものの,2 年も経たずして様々な国々で多様なアプリケーションの実証や提供を開始することができました.

事業開発のアプローチ

現場のニーズやリアリティを自ら感じ,衛星データやその他の地理空間情報を活用し,それを最新の Web 技術を用いて迅速にアプリケーションを展開し,ユーザーへ価値提供を行う,というアプローチを,この 2 年間試行錯誤を繰り返しながら実践してきました. まとめとして,FOSS4G Global 20253第 69 回 宇宙科学技術連合講演会4で発表したスライドを以下に掲載します.

  
さて,冒頭にも紹介した我々のチームの特徴は

  1. 一次産業や環境課題などのグローバルな課題を解決できる事業をターゲットしつつ,ユーザーニーズが第一であるため,現場に根ざした協働型アプローチを重視すること
  2. 自社の衛星データにこだわらず(≒ 忖度せず),さらには,衛星データにすらこだわらずに,必要に応じて様々な地理空間情報や解析手法を総動員すること
  3. モダンな Web 技術を用いて,価値提供のためのアプリケーションを迅速にプロトタイピング・開発・展開すること
  4. オープンコミュニティやエコシステムとともに成長することを重視し,将来の宇宙産業を担うプレイヤーが育つコミュニティの形成と発展に主体的に関わること

でした. これらの特徴を実現する要素について,次から簡単に説明します.

一次産業や環境課題などのグローバルな課題解決を目指す

「衛星を通して、人々により安全で豊かな未来を。」というミッションをかかげるアークエッジ・スペースが,一次産業や環境課題などのグローバルな課題を解決できる事業をターゲットにする理由は,当社の採用ページのトップに掲載された「CEO メッセージ」

地球上には、情報や通信といった現代の基本インフラが行き届かない場所がまだまだ数多く存在しています。これらの地域では、人びとが必要な情報にアクセスできず、また、環境や社会を重視した重要な取り組みをしているにもかかわらず、その情報が消費地には届かず、結果的に不利益を被り続けている現状があります。私自身、20代の頃から、アマゾン熱帯雨林地域やアフリカの最貧困地帯、紛争後の地域などにおける国際協力活動を通じて、これらを痛感してきました。こうした“情報の偏在”は適切なビジネスや地域の自立的発展を阻害する構造を生み出します。 そして、宇宙インフラ──すなわち地球全体を俯瞰できる衛星やそのネットワークこそが、この構造的な不平等を打破することが可能であると信じています。

にも現れている通り,アークエッジ・スペースがアークエッジ・スペースたる所以のひとつであります.

衛星データや衛星通信網を活用することで,まだまだ基本インフラの未発達な地域においても宇宙インフラを提供することにとどまらず,その地域の人々が抱える課題を解決するための地理情報基盤を提供できると信じています.

地上計測データ ("Ground Truth") 等の多様な地理空間データの統合

このような課題を解決するためにも,我々のチームでは衛星データにこだわらずに,必要に応じて他の地理空間情報やデータも活用しながら事業開発を行っています. それは,たとえば降水量などの気象データであったり,国の統計データであったり,人流データであったりと様々です.

その中でもひときわ重視しているデータが,地上計測データ ("Ground Truth") です. 衛星データは遠い宇宙から地表を観測しているというその特性上,データの精度や,空間分解能,時間分解能,さらには観測波長など,様々な制約があります(衛星データの解析や利活用の経験がある方であれば誰もが直面した事があるのではないでしょうか?). 衛星データの限界を補い,現地ニーズに合ったサービスを提供するために,例えば現地パートナー(政府機関や協同組合など)が保有する地上データや,当社の衛星 IoT 通信網5による地上センサデータなどを組み合わせて解析を行うことが重要であると考えており,それを実践しています.

このように,多様な "地上データ" や "ローカルなデータ" を組み合わせることで,より精度が高く,価値の高い,地域に根ざしたサービスが可能になるのです.

宇宙科学技術連合講演会 スライド 7 ページ

モダンな Web 技術による高速開発

事業開発の特に初期においては,高速に価値検証のサイクルを回す必要があります. 解釈や可視化が難しい衛星データを活用したアプリケーション開発においていつも頭を悩ませることの一つが,そのアプリケーションの価値検証結果を解釈する際に,「そもそも衛星データと解析結果そのものに価値がない」のか,「それらデータや解析結果にはたしかに価値があるが,アプリケーションの UI/UX が悪いためにその価値がエンドユーザーに十分届けられていない」のかの切り分けが困難であることです.

後者を棄却し正しく価値検証プロセスを回すためにも,衛星データの特殊性やデータサイズの大きさなどの扱いにくさを取り除き,さらにはエンドユーザーが直感的に理解できる UI/UX を試行錯誤のもと高速に開発することが不可欠です. それを実現するために,モダンな Web 技術や FOSS4G (Free and Open Source Software for Geospatial) 技術,オープンデータ等をフル活用し,加えて想定ユーザーの元へ頻繁に足を運び,ユーザーテストを繰り返してきました.

下のスライドで示しているのは,今年の 11 月に正式リリースしたパラグアイ向け農業アプリケーション画面の変遷です. 当初は PC 向けアプリケーションだったものが,途中からスマートフォン向けアプリとなり,また,安直なカレンダビューが廃止されたり,と.ユーザーテストを通じて得られたフィードバックをもとに,どんどん改善されていきました. この変化はわずか半年で実現されています.

なお,細かい技術スタックの話などは,冒頭に掲載した宇宙科学連合講演会スライドの p.8~10 や,過去のブログ を参照してください.

宇宙科学技術連合講演会 スライド 8 ページ

現場に根ざした協働型アプローチ

衛星データはその特徴からグローバルなデータが取得できます. そのようなデータを眺めていると,「世界中の 〇〇 が検出できそう!」といった抽象度の高いソリューションや,「こうすれば △△ がわかるじゃん!」といったシーズドリブンな考えに陥ってしまう,という感覚が私にはあります. そのようなシーズドリブンな感覚から実際のニーズドリブンの感覚に感性をキャリブレーションするためには,課題の抱えている現場を実際に訪れ,実際に自分の目で見て,耳で聞き,そして肌で感じることが大事だと考えています. 我々は国内のみならず,南米や中央アジア,太平洋島嶼国を中心に,東南・西・南アジア,アフリカ,その他の国々といった,たくさんのグローバルサウス諸国の現場を訪れ,そのリアリティを自らの肌で感じてきました6

このように現場に飛び込み現場の方々やユーザーの方々と直接関わりをもつことで信頼関係を構築することは,真のユーザーニーズを把握することのみならず,先述した "Ground Truth" データの取得や現地でのフィールドテスト,さらには最終的なサービス提供においても非常に重要です.

我々が実現すべきことは,課題を解決できるアプリケーションを持続的に提供することです. このようなアプローチでアプリケーション開発を進めていくなかで,取り組むべきと認識したユーザーニーズに対して,自分たちの衛星のデータが直接的に役に立たない,や,衛星データ自体はその中心的な役割を担わない,ということになってしまっても良いのです. 我々が取り組んでいる課題解決を自社のみですべてを実現するのは困難であるとそもそも認識しており,様々なパートナーの皆様と協働しながらユーザーへの継続的な価値提供を目指しているのです. 結果として,はるばる地球の裏側まで出向いて連携している企業の技術やプロダクトの話に一番時間をつかった,なんてこともありました. そうした他社の技術やプロダクトをも巻き込んで真に価値のあるアプリケーションを提供していくことが,我々にとってより重要なのです.

FOSS4G スライド 21 ページ

コミュニティの形成と発展に貢献

ここまででも述べてきたように,我々が成し遂げたいことは決して自社のみで完結するものではありません. 様々な技術や強みをもった他社や,"Ground Truth" データの提供元,協力して IoT センサデータを収集するパートナー,さらには取り組むべき課題(一次産業や環境課題など)のドメインエキスパートの皆様方と協働して初めて実現できるものです. 実際,衛星開発や観測機器開発(皆さん忘れているかも?ですが,当社は直近の 1 年で既に 9 機の人工衛星を打ち上げた衛星開発企業であり,また,我々のチームもハイパースペクトル衛星などの開発も一部担っています),データ取得,校正・検証,解析,アプリケーション開発,事業開発,,,その全てにおいて,他社の方々と一緒に仕事をさせて頂いています. 同じ志を持った方々との連携を深めるためにも,また,より多くの方々が衛星データを手軽に扱えるようにするためにも,これまで開発してきたアプリケーションやツールの一部をパートナーに提供したり,人材育成に取り組んだり,また,産学連携を進めたり,と,様々な取り組みも並行して実施しています.

また,我々は様々な OSS やオープンデータを日々活用しています. 当社はもともと OSS 活動には積極的であり,自社 GitHub においても様々な OSS を公開(2025 年 12 月現在,30 リポジトリが公開中)しているだけでなく,コミュニティ活動にも積極的に参加しています. 本ブログの文脈においては,FOSS4G コミュニティは大変重視しており,2024 年,2025 年ともに FOSS4G Global にスポンサーとして参加しました. 実は,来年の FOSS4G Global は広島で開催されることが決定されており7,私はその運営委員も務めさせていただいています. このようなコミュニティの繋がりを通じて,様々な OSS を使いこなすだけでなく,その OSS の発展にも引き続き貢献していきたいと考えています.

FOSS4G 2025 ジャパンチームでの写真

事例

さて,最後に我々の事業開発・アプリケーション開発の事例をいくつか紹介します. 現在我々は,① ブラジル・パラグアイを中心とした南米 ② キルギスを中心とした中央アジア ③ 鹿児島・沖縄・静岡を中心とした国内 の3つの地域を重点地域としつつも,世界各地で事業開発を実施しています.

ここまでに消化してきたアプリケーションを「ArkEdge Insights®」という形にプラットフォーム化し,ユーザーに合わせてローカライズ・カスタマイズしながら提供しています.

FOSS4G スライド 9 ページ

ここでは,パラグアイ,ブラジル,キルギスの3つの事例について,発表スライドを引用し,掲載します.

宇宙科学技術連合講演会 スライド 12 ページ
宇宙科学技術連合講演会 スライド 13 ページ
宇宙科学技術連合講演会 スライド 14 ページ

このブログもそれなりの分量になってきましたたので,それぞれの事例についてはまた近日中,別の記事で紹介できればと思っています.

今後の展望

我々のチームの中長期のゴールは,「持続的かつ革新的な社会を実現する衛星利用サービスの基盤の担い手となる」ことと「将来の宇宙産業を担うプレイヤー・パートナーが育つコミュニティの担い手となる」です. 一方で,短期的には,課題解決に向けたアプリケーション開発を加速し,より多くの課題について,より多くのユーザーに継続的な価値提供を行うことです.

そのためにも,今回ご紹介させていただいた取り組みをさらに深化させるだけではなく,以下のような取り組みも進めていきたいと考えています.

宇宙科学技術連合講演会 スライド 15 ページ

そのためにも,皆さんのお力が必要です.

この記事をお読みいただき,弊社で働くことに興味を持っていただけた方は,当社の採用ページをご覧いただけますと幸いです. なお,事業展開には様々な専門性や多様性が不可欠であり,ここに掲載されていない職種やポジションもたくさんあります(純粋に私が Job Description を書くのが追いついていないだけです.リモセンデータ解析,PdM,PM,事業開発,海外戦略,機械学習・LLM活用などなど,幅広く募集しています.)ので,少しでも興味を持ってくださった方は,どのような方法でも構いませんので,ぜひ気軽にメッセージをください. まずは雑談でもしましょう!

あなたも,我々と一緒にグローバルな課題にチャレンジしてみませんか?


  1. このあたりの話は,「SPACE DAY 2025」での発表『衛星開発・製造・運用・利用におけるソフトウェア指向の実践』で紹介したので,もしかしたら近日中にスライドを公開するかもしれません.
  2. これらにとらわれず,必要なチームにソフトウェア人材を配置できるようになってきました.理想はというと,すべてのチームにソフトウェア指向のメンバがいるべきではあるのですが,これの実現はもう少し時間がかかりそうです.
  3. FOSS4G Global とは,FOSS4G (Free and Open Source Software for Geospatial) という地理空間情報のための OSS (Open Source Software) の国際会議,兼,コミュニティイベントであり,地理空間情報に関する OSS やオープンデータ,オープンスタンダードに関心のある研究者や開発者,ユーザーが一堂に会する場です.
  4. 宇宙科学連合講演会とは,日本航空宇宙学会が主催する日本最大級の宇宙関連学会であり,ロケットからデータ利活用,教育や政策まで,宇宙に関する幅広いテーマが扱われ,宇宙業界の同窓会とも言われることがあります.
  5. https://arkedgespace.com/news/2025-11-06_iot などを参照のこと
  6. https://sorabatake.jp/39737/ なども参照のこと
  7. https://www.osgeo.jp/archives/4501 などを参照のこと